クライシスレスポンス用アプリ・サービス事例1 PyBossa/Crowdcrafting

2012年12月8日 in Special


出典: http://newsinfo.inquirer.net/files/2012/12/banana-pablo.jpg

オープンデータの活用分野のひとつに災害時対策が挙げられる。災害発生の前後で最も信頼出来る情報はやはり政府・自治体から発せられるものだ。地震予報・速報、津波警報、台風の進路、大雨警報などは大局的な判断には欠かせない。臨機応変な対応が必要な災害時にあっては政府・自治体のデータはできる限り公開され、誰でも利用できる状態であるべきだ。

ところが、想定外の事象が起きたり、必要な情報が身近なことになってくると、大本営発表型では手に入らない情報が増えてくる。事件は会議室で起きている訳ではない。災害の現場にいるのは多くは一般市民であり、現場の情報は実は市民自身がいちばん得やすい状況にある。もちろん危険な現場に飛び込めと言っているわけではないが、目の前で起きていることをいちはやくキャッチできるのは市民自身だ。

災害時の対応には政府・自治体による「公助」、地域コミュニティなどによる「共助」、自分自身による「自助」の3つのレイヤーが連携することが必要とされるが、オープンデータは3つの中でも「共助」のレイヤーでの活用が最も期待される。
このシリーズではオープンデータと連携して、「共助」のレイヤーを支援するために開発されたアプリやウェブサービスを紹介して行きたい。こういったアプリを日本で開発する際に、多少とも参考になれば幸いである。

「共助」については理屈としては分かりやすいのだが、地域社会の崩壊が言われて久しい現代社会では、実際問題としてなかなか難しい面がある。その根本解決に向けた議論は専門家に譲ることにして、バラバラに切り離された個人であっても力を合せてできることはないだろうか。

生活様式や行動パターンが異なる群衆(クラウド)の力を借りて、誰もが目的に賛同できるような活動を共同で行う概念として「クラウドソーシング」がある。その群衆に作業を依頼する手法のひとつが「マイクロタスキング」といわれるもので、要するに膨大な作業をみんなでよってたかってやりとげるために小さな単純作業の塊に切り出すものだ。例えば就寝前の30分間だけ人助けの作業をやる、そんなイメージである。インターネットを使った作業であれば、世界規模での共同作業を行うことが可能となる。そうすると、日本にいる自分が寝ている間にもアジア、中東、ヨーロッパ、アメリカと24時間体制で作業は引き継がれていく。まさに世界市民としてのつながりを肌で感じることができる瞬間だ。

12月4日から5日にかけてフィリピンを横断した台風24号(Pablo/BOPHA)でいちはやく対応したのはgoogle のクライシスレスポンスチームだ。12月4日時点でオープンデータのマッシュアップサイトTyphoon Pablo (Bopha)が立ち上がった。
台風の進路、避難所の位置、雨雲の画像など各種オープンデータをマップ上に重ね表示するものだ。被害状況がわかりはじめた翌12月5日には尋ね人サイトであるPerson Finder も立ち上がった。

これらの支援活動の中ではいくつかの注目すべきアプリが使われたが、今回ご紹介したいのがPyBossa というオープンソースで構築された「Crowdcrafting」というサイトである。PyBossa は、それ自身がアプリケーションというよりも開発プラットフォームだ。そのプラットフォーム上で、ハッカーが自分の目的に合ったアプリケーションをスニペットと呼ばれるJavascript とHTML から成る小さなコードの固まりを書いて組み上げる。既存のテンプレートを利用することもできる。

このCrowdcrafting がフィリピンの台風向けのアプリケーションPhilippines Typhoon を実装し、ボランティアを募ってツイートの分類作業を行った。これは台風通過直後の12月5日にOCHA (国際連合人道問題調整事務所)より被災状況を示す写真やビデオの収集依頼を受けての活動だ。

このPhilippines Typhoon アプリケーションでは、12月4日~5日の膨大なツイートの中から今回の台風に関連するハッシュタグ付きのものを予め収集し、リツイートやURL を含まないツイートは除外してあるので、対象件数はかなり絞り込まれている。

やり方は簡単だ。ログインせずとも操作はできるが、情報の信頼性向上のためにもアカウントを作って操作することをお勧めする。
「Start contributing now!」をクリックして作業開始。まず、上段に何らかのURLを含んだツイートが現れる。

そのURLをクリックして現れたものを確認し、

出典 http://twitpic.com/bj4tdi

それが「画像」「ビデオ」「何らかの位置情報」「その他」のどれに該当するか分類し、最後にそのURLを貼り付けて「Submit classification」ボタンで登録、

ひとつの作業はこれだけの単純なものだ。アカウントを作成してログインすると1700件ほどのツイートが割り当てられるので、この作業を自分が使える時間の枠内で淡々と繰り返す。飽きたり眠くなったら中断してまた明日にすれば良い。

もっとも重要なのは個人が自分のスマホで撮影した写真やビデオだ。日時や位置情報が付加されていればそのまま地図上にマッピングでき、必要な支援を検討することができる。

ここまでの流れを振り返ると、市民が収集・発信した大量データの中から災害対策に有用な情報を抽出するという作業を、効果的な前処理によるフィルタリングと、タスクの単純作業への分割と、実作業要員の大量・短時間確保と作業分担などをうまく組み合わせて短時間で実現した好例と言えるであろう。

OCHAからの依頼は12月4日~5日のツイートをおおよそ12月6日いっぱいで分類して欲しいというタイトなものであったが、Standby Task ForceHumanity Road といった人道支援組織から成るDigital Humanitarians Network がみごとにこの依頼に応えた形だ。下記はその結果、及び他の手法で収集したものと併せて地図上に可視化したものである。

出典: iRevolution / Patric Meiyer

詳細な評価はまだこれからであるが、PyBossa を使ったツイートからの情報収集はクラウドソーシングとマイクロタスキングのひとつのモデルとなる可能性がある。Philippines Typhoon にはまだ多数の未分類ツイートが残っている。緊急支援に向けた分析はいったん終わっているが、今後に向けて何らかの役に立つ可能性がある。この機にぜひその手軽さを体験して頂き、次に備えて頂きたい。ハッカーのあなたにはぜひこのプラットフォームで何が作れるか、考えてみて頂きたい。

素人のボランティアが発信・収集した情報はその精度や信憑性が問われることがあるが、このようにして集められたデータには、日付時刻や位置情報が付いた写真やビデオが付加されているところがポイントである。テキストだけの情報であれば悪意や悪ふざけで虚偽の情報を書くことが容易だ。写真の加工もできない訳ではないが、数を絞り込んだ上で専門家の目を通せばそういったものは見抜けるであろう。例外的なことを懸念するよりも、市民自らが「共助」に参加する意義ははるかに大きい。スマートフォンを常時持ち歩いている人や自宅などでよくインターネットを使っている方々には実は社会を助けるチカラがあるのだ。

ちなみにこのPyBossa には、Open Knowledge Foundation の共同創設者のひとり、Rufus Pollock も開発者のひとりとして参加している。

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12/9追記: 12月8日付で続報記事How the UN Used Social Media in Response to Typhoon Pablo (Updated) が投稿された。結果はOCHA の公式レポートに掲載され、フィリピン政府でも利用されているとのこと。クリーニングされた情報はgoogle crisis response のマップにも「Crowdsourced Photos and Videos」として追加されている。
参考:Citizen Cyberscience helps assess damage in Typhoon stricken Philippines (UNITAR)

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Shu Higashi (東 修作)

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Georepublic Japan に勤務。OKJP事務局長及びオープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン 事務局を兼務。Code for Japan設立発起人。内閣府電子行政オープンデータ実務者会議利活用推進WG構成員。 OpenStreetMapという自由な世界地図を作る活動をきっかけにオープンデータの活動に関わりはじめました。主な関心領域はデータのライセンシング、コミュニティ活動、市民参画、国際連携など。 投稿記事の内容はあくまで個人としてのものであり、所属する組織を代表する見解ではありません。