オープンガバメントのキモは地域再生

2013年4月12日 in Special


Collaboration / ChrisL_AK / CC BY

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普請から公共事業へ、そしてこれから

普請(*1)という言葉をご存知でしょうか。普(あまねく)請(こう)の字義どおりみんなに呼びかけて何かをやろうとするものです。古くは近所の道路整備や家の建築など、身近な共同体の相互扶助として行われてきました。後の公共事業の原型でもあります。

近代国家を作り上げるため、あるいは戦後の復興を成し遂げるため、国を挙げて大掛かりな公共事業を行い、経済と共に社会を回して行く仕組みで日本は発展してきました。しかし、完璧な社会は人類史上未だ登場していません。世の習いとして発展はいずれ停滞に至り下降が始まります。日本では団塊世代を中心とした戦後の発展が停滞期を迎え、既に高齢化、少子化社会に向けてまっしぐら。政府・自治体主導の公共事業への依存を大きく方向転換する時期に来ています。

世界の動き

一方、世界を見るとどうでしょうか。

2009年1月、米国オバマ大統領はその就任に際して「透明性(transparency)」、「国民参加(participation)」、「協業(collaboration)」というオープンガバメントの3原則を提示しました。

2009年9月、オライリー・メディア社のファウンダーであるティム・オライリーはガバメント2.0を提唱しました。これはITを活用したプラットフォームとしての政府や、Do It Ourselves な社会を指しています。(*2)

2010年7月、英国キャメロン首相は新政権の社会政策として「大きな政府」ではなく「大きな社会(Big Society)」を打ち出しました。その内容は中央政府から地方自治体への権限移譲、地域住民の行政への参画、民間非営利部門の支援、政府データの公開などです。(*3)

オープンガバメントガバメント2.0、そして大きな社会というコンセプトは表現こそ違え、いずれもオープンデータやIT技術を媒介として個人やコミュニティ(地域の共同体)を中心とする新しい社会をめざしている点で、通底する思想はほぼ同じと言えるでしょう。

こういった動きは日本で根付くのでしょうか?IT技術に縁のない人には関係のない話なのでしょうか?

道普請やご隠居に見る社会参画

かつて日本には中央や地方の政府とは別に、身近な集落内で助けあう共同体はごく普通に存在しており、例えば「道普請」は今でも行われています。(*4)政府や自治体に税金をつぎ込んでもらうだけでなく、自分たちでやれることはやってしまおうというならわしの背景には、精神論だけではなく経済的な合理性もあります。

また、江戸時代には早ければ40歳台半ばにはリタイアする「ご隠居」がかなりいたとする説があります。(*5)ご隠居とは次世代に家督を譲り、直接的な利害関係を離れて街を見守る、いわばスーパーバイザーです。おそらく自分の家族のことだけでなく、町内やより広い社会の「全体最適」の視点を持ちやすい存在だったのではないでしょうか。こういった人たちが地域の自治に意見を出したり、参加したりする自律的な社会は、まさに今必要なものです。

地域の行政は全て役所の役割として一方的に任せてしまうと役所に対する声の大きい人の意見だけが通ったり、受益者としての市民の権利意識が強くなりがちで、結果的に不平等であったり高コストな社会を生み出しやすいといった弊害が出てきます。これからの日本にはリタイアした人も、現役の人も、社会におけるそれぞれの立場から、声の大小ではなく、オープンデータという客観的な事実に基づいて、自分の住む地域の行政をウォッチし、意見し、参加すべきです。他の誰でもない、自分自身が参加意識を持つことが必要です。

古くて新しいオープンネス

「情けは人の為ならず、巡り巡って己が為」ということわざがあります。他人への思いやりは長い目で見れば相手だけでなく、社会のつながりを経て最終的には我が身のためにもなる、といった意味合いです。利己的な考え方というよりも、情けを受ける側の負担感を減らす思いやりのある言葉だと思います。「オープンネス」の考え方も全く同じです。公開することによる直接的な利益は短期的には必ずしも明らかではありませんが、長期的にはその波及効果は社会全体に利益をもたらすと考えられています。

直接民主主義に近づくツールとしてのIT

民主主義の理想は全員が直接的に政治に参加する直接民主主義ですが、これまで住民全員が社会の運営に参加することが不可能であったため世界の多くの国々で間接民主制あるいは議会民主制がとられています。しかしITやソーシャルメディアの発展はこの常識を変えようとしています。ソーシャルメディアを使う人は社会全体からみればまだ一部に過ぎません。しかし、投票にもあまり行かず、社会で声を上げる機会が少なかった人たちから幅広く、低コストで意見を吸い上げられる可能性があるのです。ガバメント2.0などの文脈でITが大きく取り上げられる理由はそこにあります。
(参考:ITを使った場合でもひとりひとりが全てバラバラな意見を言うだけではとりまとめが困難なので、意思決定をその分野に詳しい知り合いに委任することができるという、いわば餅は餅屋式の仕組みを持つ液体民主主義(*6)という考えもあります。)

一方でデジタルデバイドや声を上げにくい社会的弱者の存在には十分配慮する必要があります。こういった人たちも含めた多方面のステークホルダーが、オープンにされた情報やデータに基づいて多様な意見をぶつけ合う場を設け、みんなで街づくりを考えていくことが、様々な課題にとって解決の糸口となることでしょう。

むすび

ITのチカラを借りて新しい社会のあり方を目指すオープンガバメントやガバメント2.0は、なんだか遠い世界のことのようにも聞こえますが、そのアプローチは実は私たち日本の文化にはとてもなじみ深いものです。日本各地に残る共助の仕組みや地域再生の試みを再評価し、さらには市民自らが行政に積極的に参画する時が来ているのです。

参考資料:
(*1) 普請
(*2) ティム・オライリー特別寄稿:ガバメント2.0―政府はプラットフォームになるべきだ
(*3) 英国新政権の市民社会政策-「大きな社会の構築」について-
(*4) 道普請(みちぶしん)」って何???
(*5) 江戸時代のくらしとご隠居パワー
(*6) 液体民主主義 液体フィードバック入門

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Shu Higashi (東 修作)

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Georepublic Japan に勤務。OKJP事務局長及びオープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン 事務局を兼務。Code for Japan設立発起人。内閣府電子行政オープンデータ実務者会議利活用推進WG構成員。 OpenStreetMapという自由な世界地図を作る活動をきっかけにオープンデータの活動に関わりはじめました。主な関心領域はデータのライセンシング、コミュニティ活動、市民参画、国際連携など。 投稿記事の内容はあくまで個人としてのものであり、所属する組織を代表する見解ではありません。