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オープンデータビジネスモデル(4) BillGuard、警告から紛争解決へビジネスモデルを最適化

2013年9月24日 in Special

4番目のオープンデータビジネス事例は、アメリカのBillGuardです。BillGuardは、クレジットカードが不正に使用されていないかどうかを監視する消費者向けのサービスを提供しています。

不正の監視にあたっては、米消費者金融保護局(Consumer Financial Protection Bureau, CFPB)が公開している、クレジットカードに関する苦情データベースを活用しています。

CFPBの苦情データベースには、2011年7月以来3万件以上のデータが記録されており、苦情の最大の原因は請求トラブルで約15%を占めています。データベースからは苦情内容、受付日付、企業への送付日付、企業名、企業の対応状況などを入手することができ、アプリケーション開発者のためにRESTful APIも提供されています。

 

 

BillGuardはクレジットカード苦情データベースに加えて、米商事改善協会(Better Business Bureau)、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアなどからもクレジットカード不正使用に関する情報を収集し、同社と契約した顧客のカードに対し100種類以上のロジックで、不正や誤り、詐欺的な行為が疑われる利用記録がないかどうかをチェックしています。問題を検出した際には、顧客に対して警告し、さらに不正に利用されたお金を取り戻すことも支援しています。

BillGuardのビジネスモデルはフリーミアムです。クレジットカード2枚までは、毎月の監視レポートとリアルタイムの警告サービスを無料で利用できます。年間45ドルを支払うことでカードの上限枚数が10になり、不正事案が発生した際に優先的に支援を受けられるようになります。BillGuardによれば、一般消費者は年間3百ドル以上をクレジットカードの不正使用等によって失っており、クレジットカード詐欺だけでも総被害額は年間70億ドルに達し、銀行が把握しているのはそのわずか3分の1に過ぎないとのことです。

さらにBillGuardはクレジットカードの不正使用に関する紛争を早期に解決するサービスを銀行や商店に対して有料で販売しています。銀行や商店からすれば、独自に紛争解決を行って金と時間をかけるよりも、BillGuardに委託した方が効率的です。最近は、銀行や商店に対する不正使用紛争解決支援契約の重要性が徐々に増しており、ビジネスモデルとしてはアンバンドルビジネスモデルに変わりつつあります

 

BMG-BillGuard-3

 

BillGuardは、顧客がクレジットカード詐欺への銀行の対応が十分でないと不満を持っている点をうまくとらえました。年間70億ドルにも上るクレジットカード詐欺被害に対して、銀行が認識できている割合は3分の1にとどまっており、銀行の不誠実とも言える対応への不満は苦情データベースに蓄積され、増え続ける詐欺に対する消費者の不安が高まっていました。銀行側としても、増加の一途をたどるクレジットカード詐欺に対応するための十分なリソースはなく、不正使用に関する紛争解決コストの上昇が大きな問題となっていたのです。

 

BillGuardは独自に開発した不正検知アルゴリズムによって、消費者に対してはクレジットカード詐欺の早期検知と警告のサービスを提供するとともに、銀行や商店に対しては不正使用紛争案件の早期解決を支援するビジネスを行っています。BillGuardが利用しているデータは、公的機関が公開しているオープンデータやソーシャルメディアです。BillGuardのコア・コンピタンスは、誰でもアクセスできるオープンデータの中からクレジットカード詐欺をできるだけ正確に素早く検知することができる独自の不正検知アルゴリズムにあります。

 
 

オープンデータビジネスモデル(3) Zillow、透明で正確な不動産価格査定が高めるネットワーク効果

2013年9月19日 in Special

3番目に取り上げるオープンデータビジネス事例は、不動産情報サービス業Zillowです。Zillowは消費者や不動産業者などに対して、オープンデータを活用した独自のモデルで算出した不動産価格の査定情報を提供しています。

これまで不動産査定価格としては、比較市場分析による価格か、不動産鑑定士による鑑定評価が用いられてきました。Zillowは独自の査定情報を提供することで、不動産取引の透明性を高め、売り手および買い手ともに取引の満足度を上げることに成功しています。Zillowは全米で1億1000万件の不動産データを保有しており、そのうちの1億件に対して独自モデルに基づく価格を提供しています。

 

 

ZillowはZestimateという不動産価格査定モデルを活用して、独自に不動産価格を査定します。Zestimateでは、固定資産税の情報と実際に支払った額、税の特例措置、租税査定人の記録など地方公共団体などが提供するオープンデータを取得し、活用しています。これらの情報に加えて、物件の場所や面積・区画、ベッドルームやバスルームの数などのスペック、同物件のこれまでの売買価格や近隣の売買価格などの情報を組み合わせて、独自の不動産価格を算出しています。

Zestimateと実際の売買価格との差は地域によって異なります。これはZillowが入手できるデータの種類が地域ごとに異なっているためです。より多くのデータを入手できる地域では、Zestimateはより正確に売買価格を予測できます。全米の主要な地域では、約3割が5%の誤差、約半数が10%の誤差、約8割が20%の誤差の範囲に収まっています。Zillowの収益源は、不動産業者や住宅ローン会社、物件オーナーなどから得る広告掲載料です。

Zillowのビジネスモデルは、Business Model Generationにおけるマルチサイドプラットフォームに属します。マルチサイドプラットフォームとは、複数の異なる顧客グループをプラットフォーム上でつなぎ合わせることによって価値を生むタイプのモデルであり、生み出す価値の大きさは顧客グループの集客力、つまりネットワーク効果をどれだけ高められるかにかかっています。

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Zillowは不動産価格の独自の査定情報を提供することによって、多数の不動産購買者と不動産提供者を1つのプラットフォームに集めることに成功しています。その背景には従来の比較市場分析や不動産鑑定士による鑑定価格に対する不満があります。特に従来の価格査定プロセスは透明性に欠けており、買い手にも、売り手にも価格に対する根強い不信感がありました。

Zillowの独自の査定価格を可能にしているのがZestimateという予測モデルです。ZillowはZestimateにおいて、公的機関が公開しているオープンデータと、一般市民が直感的に理解できるデータを利用することで、価格査定プロセスの透明性を高めることに成功しています。さらに実際の売買価格との誤差についても自ら公開するとともに、より多くのデータが公開されている地域では誤差がより小さくなることなども明らかにし、買い手からも売り手からも価格査定プロセスの透明性に対して支持を得ています

 

 

オープンデータビジネスモデル(2) Total Weather Insurance、「個客」ごとに独自の保険商品をデザイン

2013年9月17日 in Special

2番目のオープンデータビジネス事例は、アメリカのインターネット保険会社The Climate Corporationが開発した農家向けの収入保障保険商品Total Weather Insuranceです。The Climate Corporationは2011年11月、米国立気象サービス(National Weather Service)および米農務省が公開しているデータを活用し、Total Weather Insuranceの提供を開始しました。

Total Weather Insuranceとは、農作物の収穫を妨げる悪天候に備えて年間を通じた収入を補償する保険であり、トウモロコシ、大豆、ソルガム(イネ科の1年草の植物・穀物)を対象としています。

 

 

Total Weather Insuranceでは、国立気象サービスがリアルタイムに提供する地域ごとの気象データに対して農地の標高や水域への近さなどの補正を加え、2.5平方マイル単位で雨量や気温をより正確に予測します。さらに農務省が提供する過去60年の収穫量データ、土壌の水分量を毎日計測するSoil Moisture Trackerからの土壌データを活用して、顧客ごとに保険商品をカスタマイズして提供します。

保険によってカバーされるリスクは作物ごとに違いがあります。例えばトウモロコシに対しては、種まき期の降水量、過剰降雨、干ばつ、日中の熱による影響、夜間の熱による影響、冷害や凍結などのリスク要因が対象となります。

 

 

Total Weather InsuranceではFarm-Level Optimizerという技術によって、作物、場所、土壌のタイプが異なるそれぞれの生産者に対し、収穫量を左右する気象条件を動的に判定しています。250万カ所の気象測定データと、主要な気象予測モデルから得られる日々の気象予報のデータを、1500億カ所の土壌観察のデータと組み合わせて処理することで、10兆にも上る気象シミュレーションのポイントを生成し、保険価格を決定したりリスク分析をしています。

The Climate Corporationには数学、統計、神経科学などの博士号を取得したデータ解析の専門家であるデータサイエンティストが10数名在籍しており、ビッグデータの解析業務に従事しています。システムはAmazon Web Services(AWS)を使用し、50テラバイトのデータを処理しています。

Total Weather Insuranceのビジネスモデルは、Business Model Generationにおけるロングテールに属します。ロングテールとは、多品種の製品やサービスを少数の顧客に販売するタイプのモデルで、Total Weather Insuranceはまさに「個客」ごとに独自の保険商品をデザインして提供しています。

 

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Total Weather Insuranceのビジネスモデルの特徴は、10兆ものシミュレーションポイントによって顧客ごとに最適にカスタマイズされた個別商品を提供している点にあります。こうしたハイレベルなカスタマイズを可能にしているのは、The Climate Corporationが開発したFarm-Level Optimizerという技術です。このFarm-Level Optimizerを開発したのは、データ解析のプロであるデータサイエンティストたちであり、世界的な人材に不足によって多くの企業が採用できずに困っている優秀なデータサイエンティストを10数名も揃えることができたことが成功の最大の要因であると言えます。

Total Weather Insuranceは、保険の申し込みやリスク判定、収入保障金の支払いなどを徹底的に自動化する一方、顧客とのチャネルは認証エージェントを通した形に統一しています。顧客である農家のニーズは千差万別であり、農家は認証エージェントによるフェイストゥフェイスの個別対応の方がより好ましいとみなしていると考えられます。

The Climate Corporationは、農家に対してインターネットでダイレクトに保険を販売する形が取れるにもかかわらず、あえて認証エージェントを置くことによって、製品のみならずカスタマーサービスにおいても個客性を高め、ロイヤリティの獲得に成功しています。

 

 

オープンデータビジネスモデル(1) Opower、エネルギー事業者の顧客対応業務をアンバンドル

2013年9月13日 in Special

最初に取り上げるオープンデータビジネス事例はOpowerです。アメリカのエネルギー情報サービス会社であるOpowerは、オープンデータを活用することによって、家庭ごとに最適化した省エネ対策をアドバイスしています。Opowerは、家庭におけるエネルギーの使用量、気象、機器の効率データなどをもとにして具体的な省エネ対策を分析します。

Opowerは住宅エネルギー消費調査(Residential Energy Consumption Survey)から、住民が利用している機器に対応する効率性能、冷暖房システムやエネルギー源などの消費データを取得しています。

 

 

住宅エネルギー消費調査とは、米エネルギー情報局が地域ごとにデータを公開しているもので、世帯を以下の属性をもとにセグメントに分けています。

  1. 住居タイプ(一戸建て、テラスハウス型、2-4世帯の小規模アパート、5世帯以上のアパート、トレーラーハウス)
  2. 築年数(1940年以前と10年刻みのグループ)、
  3. 世帯人数(1人、2人、3人、4人、5人以上)、
  4. 世帯収入(2万ドル刻みのグループと貧困ライン以下)、
  5. 気候区分(極寒・寒冷、多湿、乾燥・高温乾燥、高温多湿、海洋)

住宅エネルギー消費調査では、セグメントごとにエネルギー種別と消費量(電気、ガス、プロパン/LPG、木材、重油、灯油、太陽光)並びに各エネルギーの消費目的(暖房、エアコン、温水、調理、その他)などのデータが公開されています。さらにOpowerは、米国勢調査局による郡ごとのガスと電気の使用比率のデータなどを用いて、契約している家庭ごとのエネルギーの消費パターンを割り出して、各家庭に最適な省エネ対策レポートを発行しています。

 

 

省エネ対策レポートには、類似セグメントに属するエネルギー消費効率の良いモデル家庭に比べて、エネルギー効率がどれだけ良いか・悪いかが定量的に表示されています。さらに、エネルギー効率を改善するための具体的な方法、例えば「サーモスタットを2度上げなさい」「もっと効率の良い冷蔵庫を使用しなさい」「ダクトの穴を塞ぎなさい」などの対策と共に、その対策によっていくら節約できるのかも示されています。Opowerはこうした具体的な対策が記載されたレポートを、Opowerが契約しているエネルギー事業者の名前で消費者に郵送し、Webでも閲覧できるようにしています。

 

Opowerのビジネスモデルは、Business Model Generationにおけるアンバンドルビジネスモデルに属します。アンバンドルビジネスモデルとは、顧客、製品、インフラという異なる3つのビジネスタイプのどれかを外部に出すタイプのモデルです。

 

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Opowerのビジネスモデルの特徴は、エネルギー事業者の顧客対応業務をアンバンドルしている点にあります。Opowerはエネルギー事業者と、顧客に対する省エネ対策レポート発行業務の請負契約を結び、収益を得ています。エネルギー事業者の顧客は、追加費用無しに省エネ対策レポートを受け取ることができ、エネルギー事業者は法律で義務付けられている省エネ対策情報の提供をOpowerに委託することで、コストを引き下げることが可能となります。

Opowerのコア・コンピタンスは独自開発したパターン分析アルゴリズムです。Opowerはこのアルゴリズムによって、家庭ごとのエネルギー消費パターンを分析し、同一セグメントの家庭との比較に基づいてエネルギー効率改善策の策定を行うことが可能となります。Opowerは住宅エネルギー消費調査などの公的機関が公開しているオープンデータを活用していますが、独自のパターン分析アルゴリズムによって大きな付加価値を生み出しています。

アメリカのほとんどの電力企業は州政府などからの要求で、電力使用削減目標を満たすことが義務付けられています。こうした規制を素早く低コストで達成するOpower の分析サービスは、大手電力企業を中心に急速に広まりました。Opowerは世界7ヶ国、85のエネルギー事業者とパートナー契約を結び、1600万人以上の顧客にサービスを提供しています。Opowerはこれまでに約2テラワット時のエネルギー削減と2億8千万ドルのエネルギー支出抑制を実現し、今年はさらに1億5千万ドルのエネルギー削減を見込んでいます。

 

 

オープンデータビジネスモデル Business Model Generationによる分析

2013年9月12日 in Special

2013年になってから、欧米ではオープンデータを活用したビジネス事例が増えてきました。そこで、これらの事例が具体的にどのようなビジネスモデルに基づいているのかを詳しく調べてみたいと思います。

ビジネスモデルを定義する方法はいくつもありますが、ここではBusiness Model Generation(BMG)を使用します。Business Model Generationのコンセプトは、4つの領域(顧客、価値創造、インフラ、資金)をカバーする、9つの構成ブロックから構成されており、全体をThe Business Model Canvasとして表現することを特徴としています。

 

BMGの9つの構成ブロックには以下の内容を記述します。

  1. 顧客セグメント(Customer Segment): 企業が関わろうとする顧客グループについて定義する
  2. 価値提案(Value Proposition): 特定の顧客セグメントに向けて、価値を生み出す製品とサービスについて記述する
  3. チャネル(Channel): 顧客セグメントとどのようにコミュニケーションし、価値を届けるかを記述する
  4. 顧客との関係(Customer Relationship): 企業が特定の顧客セグメントに対してどのような種類の関係を結ぶのかを記述する
  5. 収益の流れ(Revenue Streams): 企業が顧客セグメントから生み出す現金の流れを表現する
  6. リソース(Key Resources): ビジネスモデルの実行に必要な資産を記述する
  7. 主要活動(Key Activities): 企業がビジネスモデルを実行する上で必ず行わなければならない重要な活動を記述する
  8. パートナー(Key Partners): ビジネスモデルを構築するサプライヤーとパートナーのネットワークについて記述する
  9. コスト構造(Cost Structure): ビジネスモデルを運営するにあたって発生するすべてのコストを記述する

 

BMGでは、ビジネスモデルをアンバンドルビジネス、ロングテール、マルチサイドプラットフォーム、ビジネスモデルとしてのフリー戦略、オープンビジネスモデルという5つのパターンに分類しています。ビジネスモデルとしてのフリー戦略としては、基本は無料で高度なサービスを有料とするフリーミアムモデルや、関連商品やサービスの継続購入を促すために低価格あるいは無料の導入提案をするエサと釣り針モデルなどがあります。

 

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出典: Business Model Generation(アレックス・オスターワルダー&イヴ・ピニョール, 2012)

 

次回からはオープンデータビジネスの具体的な事例をもとにして、それぞれの事例がBMGのどのパターンに属し、どのような特徴を備えているのかを考察します。

 

参考:

アレックス・オスターワルダー&イヴ・ピニョール(2012)、「Business Model Generation」、翔泳社